つんどくです。

知的好奇心と創造を、

女トロフィー

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 休日は行きつけのカフェで読書をしているが、人間観察もする。ショッピングモールにあるカフェのため、目の前の通路には多くの人が坦々と通り過ぎていく。川の流れを見るように、呆然とただ人の流れを眺めていた。姿勢、目線、手の振り方、表情、誰と話し、どこへ向かって歩くのか、そのような観察をしていると本当に人間とは不思議な生き物であり、同じような歩き方をしている人など全くいないのだと毎回感心させられるのである。

 その流れの中でひとりだけ珍しい歩き方をしている人間がいた。少女である。10代後半、名前の通りだと思わせる艶のあるポニーテールをなびかせて、全体にフリフリの付いた背中の大胆に開いている白いブラウスを着ていた。白いミニスカートから生えているモデルのような細い脚はヒール付きのサンダルと相まって、彼女をさらに魅力的にさせた。幼さが残る顔つきだが、とても凛とした綺麗な顔をしている。彼女とすれ違う人は皆一度振り向いていた。しかし、人々は彼女の美貌に見惚れるというよりかは、どこか奇妙な生き物を見るような表情に変わっていた。彼女の歩き方にはいびつさがあったのだ。竹馬に乗って歩くこども。生まれたての小鹿の後ろ脚。短足だった人間の魂が彼女に憑依したばかりのような、そのあまりにカクカクとした歩き方をしている彼女を前に、私はコーヒーを飲むのを忘れていた。

 彼女の隣には同じく10代であろう男性の姿があった。汚らしい茶髪のショートヘア、白いポロシャツ、黒い短パンでサンダルを履き、肩で風を感じているような歩き方をしている少年だった。彼は気づいていた。周囲の人たちが自分の隣を歩く彼女を見ていることに。その証拠に彼は彼女と話しながら歩いているが、その目線は終始周りを気にかけているばかりであり、どこか満足そうな表情をしていた。

 彼女がお手洗いに向かったのか、私の視界で彼は背中を壁にあずけてスマートフォンを眺め始めた。その瞬間、いままで風を感じていた肩がシュンと縮こまる。猫背になり、スマートフォンを覗く彼の表情には男らしさの欠片さえも感じることが出来なくなっていた。あれが彼の本当の姿であると確信した。自分には自信のあるものを何も持ちません。一人では胸を張って生きていけるほどの者ではありません、と言っているような姿勢と表情。誰もが振り向くような彼女が隣にいる自信を優越感に変えて、自分の自信へと誤解しているのかもしれない。そこまで彼をそうさせてしまうSNSから始まった日本のマウンティング精神に私は憤りと恐怖を感じずにはいられなかった。他者よりも幸せにならなくてはいけない。他者よりも充実した人生を歩みたい。優越感を得たい。そんなどうでもいいような世間体との比較に少年は悩みながら生き続けなくてはいけないのだ。

 彼女が戻ってくると少年はまた胸を張り、肩をなびかせながら歩き始めた。たぶん、彼は彼女の左アキレス腱に貼られた絆創膏の存在を知ることはないだろう。彼が本当に見なくてはいけないのはそこにある。

【book_61】語ることで本が一冊できるのってすごくない?

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どうも、つんどくです。

デブにはご縁の無い1冊だと思っていたが、やはり未来は何が起きるかわからないとつくづく思い知らされる。

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【随時更新】没頭して朝まで読んでしまった本のまとめ

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どうも、つんどくです。

この記事では、私が読書に没頭するあまりそのまま朝を迎えてしまった本のまとめを随時更新して紹介していこうと思います。

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