【book_64】生きていくための読書
どうも、つんどくです。
今回は、江國香織さんの『物語のなかとそと』について感想をつらつらと述べていこうと思う。
読書をする人には、思い入れのある作家さんなどが何人かはいるのではないだろうか?
私の場合、そのひとりは江國香織さんである。
彼女の作品を全て読んでいるということではないが、読むと何かしらの出来事と強く結びついてなかなか忘れられない思い出になっていくのである。
そんな経験から私の中で江國香織さんは、他の作家さんとちょっと違う印象がある。
エッセイではなく散文集と位置付けられているらしい『物語のなかとそと』であるが、私にはその違いはよくわからない。しかしその作品がどのカテゴリーに属するかというのは、私にとってあまり重要でない。
私は江國香織さんの小説以外は彼女の作品を読んだことがなかったため、彼女が普段何を考えているのか、どう物事をとらえているのか、何をしているのか、など多くのことを知ることができた。
お風呂で2時間もすごせるのがすごいし、種無しピオーネというものを初めて知った。食べてみたい。
一番読んで良かったなと感じた箇所は、江國香織さんも読書で現実を逃避していたこと。彼女は外出する際に必ず本を持ち歩く。
本を読むことは逃避であると同時に、一人で外にでるための練習でもあった。一人で旅をすること、物を見ること、理解すること、そして一人で生きていくことの、シンプルな練習でもあった。
(p.110 より引用)
なぜこんなにも外出するのが難しい世界になってしまったのかは置いといて、現実の世界で自分が振り回されないためにも本を持ち、読書をするということで必死に自分を保とうとすることに共感を得た。
この作品を読んだ数日後に私は出張の予定があった。
普段なら電子書籍で読んでいたのだが、今回は本を持って行こうと思えた。
長編だと覚えていられるか不安だったので短編小説がよい。ページ数も少なく、なんなら出張中に読み終えてしまうぐらいの一冊を選んだ。
よし、出張の相棒は君にしよう。よろしく頼みます。#村上春樹#パン屋再襲撃 pic.twitter.com/vU1Z8z2iGH
— つんどく📚🐖 (@tsundokupig) 2021年5月11日
そこは村上春樹さんなのかい!というツッコミは一旦無視しよう。
新幹線で移動中、仕事の休憩中、ホテルで、意識していれば読書ができる時間は意外と少なくなかった。
電子書籍で読むときより、本の方が没入できている感じがした。そのときだけ現実の世界から逃避できたということになる。
江國香織さんの文章を読んでいると何かの催眠にかけられている感覚があるのは私だけだろうか?
パンが好きと書かれていればパンが食べたくなるし(嚙みちぎるような硬いパン)、私専用のバターナイフが欲しくなる。ブドウやリンゴ、バナナなどの果物が朝から無性に食べたくなる。お気に入りのブーツを履いてどこかへ出かけたくなる。もちろん本を持ってだ。
最後に町屋良平さんが解説を書いてますが、これがまた面白い。
こういうふうに作品を読めたらまた面白いだろうなと、彼女を知っているからこそ感じることのできる作品に対しての感想が文章を通して伝わってきた。小説の世界に入ることを「すこしのあいだ死ぬこと。」と表現しているのにも、うっわマジか、と声を漏らした。しかし私は小説を書いてはいないので、書いている人からするともっと共感することが出来るのかもしれない。
この作品を読んでからしばらく経つが、外出する際は、今でも私専用になる運命のバターナイフを何気なく探している。
日常の彩りを文章で感じることができると同時に作家・江國香織さんの魅力と読書の楽しさを再発見できる一冊でした。
おすすめです。
それではまた次回!