【book_65】人生は曇り空のようでいつもぱっとしない。
坦々とした文章が、彼の日常そのものを表しているようだった。
息が続かないような長文も無く、単純作業のような私たちの人生と同じリズムを打ちながら読める文章は妙な親近感と読み易さを覚えさせる。
この物語には主人公の運命を変えるような出来事は起こらない。
嬉しいことも起きないし、悲しいことも起きないような毎日を過ごす人たちの様子を曇りのようなぱっとしない感情のまま読み進めていくことになる。
この読書体験が私にとっては新鮮だった。
独特な文章リズム。
テンポの良い風とはどんなテンポなのだろうか。
火照りのような、熱いものが込み上げてきた。その瞬間、自分が手に入れられなかったものと、手にしたかったものが、目の前を駆け抜けていったような気がした。
(P.161 より引用)
私はこの手に入れられなかったものと、手にしたかったものが理解できる日がくるのだろうか……。そんなことを考えながら何度も読み返したページを1枚めくった。
読了後、雨模様の空を見ながら私は大貫妙子の「都会」を聴いていた。
その~日暮らしは、やーめーてー♬