つんどくです。

知的好奇心と創造を、

元カノとブックオフと江國香織

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どうも、つんどくです。

江國香織さんの名前を見るたびに私の頭には大学時代の元カノが出てくる。

 大学3年の頃、私は同じサークルの女性と付き合っていた。

彼女はなかなかの気分屋で、何もした覚えがないのに私を無視したり、別の日には急に後ろから抱きついてきたり、と少し面倒な性格でもあった。

そんな彼女と付き合って数日後、彼女の趣味が読書だと知って私はとても驚いた。

彼女の家に行く途中、ブックオフに立ち寄った。当時、私も読書をしていたが、そこまで本を読んでいたわけではなく、半年に数冊、しかも自己啓発がほとんどだった。本を買うのも最寄りの書店で新品しか買ったことが無く、ブックオフで中古本を買うという経験をしたことがなかった。

彼女はブックオフに入ると、既に買うものを決めているかのようにどんどんと店内の奥の方へと進んでいく。

BGM以外には何も聞こえない店内の奥の方。少し不気味だった。

彼女が歩くのを止めたところは、文庫本の100円コーナーだった。

文庫本を買ったことが無かった私は、100円で本が買えることに驚いていた。

自己啓発を買うときはほとんどがハードカバーだし文庫本はダサい、と当時の私はなぜか考えていた。小さいし、装丁がなんか地味だし、本棚に置いてもいまいちぱっとしない。そう思って文庫本という存在にあまり魅力を感じていなかった。

彼女は真剣な目をして何かを探していた。本屋に来ているのだから本を探しているのは当たり前なのだがそのときの彼女の目は、本を探しているというより、ショーケースに並べられたケーキを凝視し、今夜のデザートはどれにしようか迷っているような様子だった。

あ、と声を漏らした後、彼女は本棚から一冊取り出した。

江國香織『つめたいよるに』という本を手にしていた。

誰?と彼女に聞くと、驚いた顔をした後にゴミを見るかのように私を見た。

「すっごい好きな作家さん。え、知らないの?本読んだことないの?」

あーいるよね、こういう自分の知っている知識を世の中の常識にしてしまう人。本当にそういう人と仲良くやっていくというのは骨が折れる。

へえ、すいやせん姉御、と言ってヘラヘラした。日本一ダサい男を決める大会があれば余裕で一位になれる気がした。

彼女はその一冊を買い、私たちはブックオフを後にした。

彼女はマンションに住んでいた。口には出さなかったが、部屋は汚かった。

物がポツポツと床に落ちていて、まるでそこがその物の定位置と思わせるぐらいに彼女は片付ける素振りを見せなかった。

その少し汚い部屋の中で目を引いたのが本棚である。彼女の腰の高さぐらいで木製の白い本棚には文庫本が綺麗に隙間なく埋められていた。

本当に本が好きなんだな、と感心して本棚の近くにいくが、知っている著者やタイトルがひとつもない。

彼女は本棚から一冊を手に取り、私に渡してきた。

「これおすすめだから。読んだら感想聞かせて。」

またしても江國香織だった。一体何者なんだ、江國香織。何がそこまで彼女を魅了するのか。『神様のボート』というタイトルに私はどんな内容の本なのか考えた。ノアの箱舟的な?三途の川を渡るのか?ボートレーサーの話か?

結局、概要すら教えてもらえないまま、私たちはシャワーを浴び、部屋の明かりを消してベッドへ横になった。

 

彼女が隣で寝ていても、頭の中ではもう一人の女性・江國香織でいっぱいだった。

浮気をしている男性の心理状態とはこういうものなのかもしれない、とダメ男らしからぬ想像をしてその夜は目をつぶった。