続・元カノとブックオフと江國香織
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翌朝、部屋がまだ少し暗い中で私は静かに目が覚めた。
ベッドの下にある携帯に手をのばし、画面を見るとまだ朝の4時半過ぎだった。
当然彼女は隣でまだ寝ている。
いくら彼女の家でも、やっぱりどこかで緊張感があってあまり深く寝れなかったみたいだ。身体がだるい。
彼女を起こしたくないのでしばらく横になったまま天井を何も考えずに眺めていた。
ふと江國香織を思い出す。
再度ベッドの下に手をのばし、昨晩借りた『神様のボート』を手に取った。
当時はあまり小説を読まなかったので結構分厚いな、というのがその本の第一印象だった。
どこかわからない壁にクマの絵が描かれている表紙。
何故か哀愁が漂っている気がした。
骨ごと溶けるような恋とは、いったいどんな恋なのだろうか…。
ゆっくりとページを開く。文庫の紙は薄くて、音が綺麗だった。
薄暗い部屋の中で私は初めて江国香織を知る。
暗い海の底へ沈むような感覚。どんどんと物語の中へ落ちていく。
ページが流れるように進む。文章から映し出される風景が徐々に鮮明になる。
部屋が薄暗かったこともあり、私は物語の中へ没入していた。
彼女がトイレのために目を覚ましたのが午前5時半。
約1時間も集中して読書をしていたことをここで知り驚いた。
午前7時過ぎ、彼女に別れを言って自分の家に帰ることにした。
電車の中では一睡もせずに『神様のボート』をゆっくりと読んでいた。
電車は苦手だったが、読書をしていると他人が気にならなくなるというか、徐々に存在が消えていく感覚があることを知った。
『神様のボート』は数日で読めた。このなんとも言えない読了感。
身体?頭?がフワフワする感覚がとても心地よかった。
「え、もう読んだの?」彼女は、信じられない様子だった。
「最後、どう思った?」
「俺は、最後は~だったと思うよ。」
「あ、そういう考え方をするか。ふ~ん面白い考え方をするね。」
他人と読書の感想を共有できるのがとても新鮮だった。
彼女はそう考えているのか、など新しい発見があることにとても興奮した。
数か月後、彼女から別れを告げられた。
気持ちが無くなってきていたのは薄々感づいてはいたが、やはり別れるということは辛かった。
大学の夏休みということもあり、深夜バイトをしてそのまま早朝バイトへ向かうという無茶をして気を紛らわしていた。おかげでバイト代をけっこう稼げた。
夏休みも終わり、大学が再び始まった。
ふと大学近くのブックオフに寄りたくなった。
100円コーナーに直行し、何か面白そうな本はないかと眺めていた。
どうせなら他の著者のも読んでみようではないか。
村上春樹という名前は聞いたことがあるぞ。面白いのか…。
どれどれと上巻だけ手にしてお会計を済ませた。
この頃から私の趣味に読書が加わった。
大学を卒業後、彼女とは一度も連絡をとっていない。
苦い思い出もたくさんしたが、読書の楽しさと江國香織を教えてくれたことは、今でも感謝している。