つんどくです。

知的好奇心と創造を、

【book_60】一條次郎 著『レプリカたちの夜』を読んだ感想

f:id:tsundokudesu:20210227185229p:plain

どうも、つんどくです。

 なかなかぶっとんだ1冊に手をつけてしまいました。。。

概要

 動物レプリカ工場に勤める往本がシロクマを目撃したのは、夜中の十二時すぎだった。絶滅したはずの本物か、産業スパイか。「シロクマを殺せ」と工場長に命じられた往本は、混沌と不条理の世界に迷い込む。卓越したユーモアと圧倒的筆力で描き出すデヴィッド・リンチ的世界観。選考会を騒然とさせた新潮ミステリー大賞受賞作。「わかりませんよ。何があってもおかしくはない世の中ですから」。(解説・佐々木敦)

(Amazon商品ページより引用)

📚おすすめな読者📚

 

  • 1 ユーモアありの作品を読みたい
  • 2 独特な世界観を読みたい
  • 3 読みながらツッコミたい

ツッコミせずにはいられない物語に脳が震える

あなたは今までに2足歩行のシロクマを見たことがあるか?

私はない。

ハゲのおっさんが複数の美女に囲まれてキャッキャしているのを見たことはあるか?

私はない。

ドッペルゲンガーに会ったことは?

私はない。

面白いことにこの物語では今聞いたことが全て起こる。

信じられないかもしれないが、読んでみてほしい。シロクマがスプーンを使ってかき氷を食べるシーンが私の頭の中ではなぜか鮮明に描くことができた。それだけの筆力がなければ、いや、この著者でなければこれほどまでにシロクマが美しくかき氷を食べることができなかっただろう。

作中に登場する人物たちはときに楽しく、ときに生死をかけ、ときにこの世の真理に触れそうなときがある。彼たちはいたって大真面目だが完全にギャグとして見てしまう一読者の私はなぜかその感覚が新鮮だった。

シロクマが2足歩行なのすげえ!と思えば種族差別と言われるこの物語に、私はどんな質問でもセンシティブになってしまう現代の終着点のようなものを見た気がする。

人間の差別がある程度終息したら今度は動物たちとの共存で差別が行われるのだ。

この世はどこまでいっても問題だらけだ。

物語が進んでいくとだんだんと自分が何を読んでいるかわからなくなるかもしれないが、それでも大丈夫。本来読書というものは読者をどこでもないどこかへ連れて行ってくれるものだからだ。

うみみずさんの美的センスにこの世の理を見た

主人公の往本以外にも個性的な登場人物・動物が多く登場する。

その中でも私の記憶に残る人物がうみみずさんである。

インテリぶったハゲのどや顔を見るも、自分の考えをスッと突き刺してくる様は言葉を剣とした現代のジャンヌダルクであった。

ほんとうにほんとうの美的感覚っていうのをもっている人がいるとしたら、そのひとはみんなが桜を見上げてぱしゃぱしゃ写真を撮ってるあいだ、木の根もとにあおあおと生えた雑草の鮮やかさに感動するし、ごつごつした木の根っこにきれいさを見いだすよね。

(p.71 より引用) 

ああ、自分もこんな感覚を持ちたいなと思った反面、みんながこんな考えを持っていたら世界は平和なんだろうなと思いました。

でもそのあと彼女は失神したり、小便をちびったりします。

私が選ぶこの1文

 うみみずは往本が引き留めようとするのにもかまわず、ぷりんぷりんをはじめた。

(p.286 より引用)

 これだけを読んでも彼女が何をしているのか想像もできないだろう。

大丈夫、私もこの1行を初めて読んだ瞬間、彼女のぷりんぷりんに遠くから呆然と立っている事しかできなかったからだ。

ぷりんぷりんが何かと聞かれると答えることができない。しかし彼女はぷりんぷりんをしたかったから行動に移した。それだけのことだが、現代の私たちにこれができるのは一体何割になるのだろうか?やりたいことはあるが、それを止めるだけの不安や言い訳はそろっている。

でもそんなの関係ない。

さあ、みんなもぷりんぷりんしようじゃないか。Let's Purin-Purin!

マジメにやっているんだけどシュールな笑いを誘ってくるこの感覚、著者の一條さんは本当に恐ろしい人だ。

読書あるある?

関係があると言えばあるが、無いと言えば無いのが音楽ネタである。

面白い作品の中には登場人物の好きな音楽を語るシーンが登場する印象がある。

物語で実際のアーティスト名や曲名などを述べるシーンなどは実際にYouTubeで調べて曲を聴いてみたくなる衝動に駆られることが多い。しかしその調べる動作をすることで読書の流れが止まるので調べないまま読書を続けることが私はほとんどである。

でも内心少し気になっている。でも実際に調べるほどではない。しかし読書を止めたくない。このように私の心の中には小石のようなものがどんどんと溜まっていくのだ。

この何とも言えないもどかしさに共感できる人はいるだろうか?

 

この作品は、オーケストラのように場面がどんどん変わる。ページをめくればめくるほどその物語に引き込まれていき、やがて自分が迷子になる。

自分の信じるものが本物である補償などどこにも存在せず、ましてやそんな信じる心がある自分さえも本物なのか、疑心暗鬼が止まらなくなるでしょう。

それでも私たちは今を一生懸命に生きていくしかないのです。

何が言いたかったかと言うと、肩の力を抜いてどんなことが起きようと受け入れることが読書を楽しむ秘訣なのかもしれないと感じた作品でした。

とてもおススメです。

それではまた次回!

だらだらやっていますが、なんとか60冊目を突破しました!わーい!